その日はとても疲れていたのに、なかなか寝付けなかった。
12月の夜と言えどバンコクは非常に蒸し暑く、とても扇風機無しでは寝られない。
水シャワーを浴びてスッキリするのだが、部屋に戻るとすぐ体の内側からジンジンと熱くなってきて、扇風機を最大風量で体に当てながらベッドに体を横たえる。
30分くらいたって、思った。
…………寝れねぇ……
扇風機がブンブンうるさいし、風のせいで前髪がおでこにぴちゃぴちゃあたってうざいし。……っつーかさむっっ!!!
っでも風から離れると急にあつっ!!!
俺は扇風機をこねくり回し、あえて扇風機を真上に向けることで、壁→天井→壁と部屋を半周させて丁度いい具合に威力を殺した風を体に当て、さらに部屋に置いてあったバスタオルを体に巻きつけることで、暑くも寒くもなく「いい感じに涼しい」という寝るのに最適な温度に調節することに成功した。
しかし寝れない。扇風機と、外の喧騒がうるさくて。
この辺は飲み屋が多く、毎日朝まで欧米人たちが大騒ぎしているのだ。
一度気になりだすと、その音はもう頭から離れない。
しかも扇風機の方はガタがきてるのか、一定間隔で「ガゴッ!」と不安な音を出すのだ。うとうとしても「ガゴッ!」「ビクゥッッ!!」となり、完全な眠りにつけないでいた。
俺はおもむろにバックパックからこんな時のために持ってきていた耳栓を取り出し、耳に装着した。
そして眠りについた。外はもう明るかった。
しかし普通に6時間寝て、11時過ぎに起きた。
飯を食うため外に出ると、サンダルの露店があった。クロックスのサンダルがなぜか180Bで売っていたので、やすっ!ラッキー!と思い即時購入した。
いつものパッタイを食べ、両替屋でカンボジアで使うUSドルを手に入れ、宿に戻る。
次は、そろそろ洗濯をしなければならないだろう。
Tシャツを4枚しか持ってこなかったので、3日に一度は洗濯しなければならない。
ちなみに外にいる時は10分に一度500mlの水を飲み干し、同等かそれ以上のペースで汗を出し続けているので、節約として2日間同じTシャツを着るとかいう考えは微塵も浮かばない。
ロビーでバケツを借りようとしたが断られてしまったので、洗面所のシンクの底をガムテープで目張りし、水をためて洗剤を入れ、服をバシャバシャやって流して絞って干した。部屋に紐を張り巡らせ、扇風機の風が当たるようにうまいこと洗濯物を配置する。
意外と簡単にできた。というか意外と楽しい。ちなみにガムテープ、洗剤、洗濯ばさみ、紐は全て持参品だ。これだけもっていればどんな宿にいったって洗濯をすることができるだろう。
洗濯を終え、宿を出た。
今日は、バンコクのバス事情を理解する日と決めていた。
どうやらバンコクではバスに自由に乗れると、超低価格でどこにでも行けるようになるらしい。先の長い旅には必須なスキルであろう。
とりあえずカオサン通りに近いバス乗り場へと向かった。
そして、一昨日の旅行代理店でもらった案内で見た、カオサンからファランポーンへ行く159番のバスを待った。
つーか159番って……どんだけ路線あんだよ……
と思いながら待っているのだが、来るのは2番とか15番とか30番とか小さな番号だけだった。
遠くに、白いバスが見えた。旅行代理店の案内には159番は白いバスだと書いてあった。
だんだん近づいてくる。
おっ!3ケタだ!これは159番かも!
……
…………
512番だった。
だからどんだけ路線あんだよっっ!!!ふざけんな!!そんな覚えられるワケねーだろうが!!!
そしておまえら平然とそのバスに乗るなよっ!!つーか512本もバスあったらもう行くトコないだろ。
俺はなんだかどうでもよくなってしまい、次に来た2番の赤いバスに乗り込んだ。知ってる場所や面白そうな場所があれば降りればいいし、無ければ一周して戻ってくればいい。
どうやらこのバスには「バス停で停まる」という概念があまり無いらしく、停まれる所で停まっては客を入れたり出したりしている。
俺はよくタイ人たちの動きを観察したのだが、乗る時も降りる時も、彼らが車掌さんと思われる若い青年に運賃を払っている様子はない。
いつ払えばいいのかと車掌さんの動きを注意深く見ているのだが、彼はバスの中でつり革にぶらさがったり壁を蹴ったりして遊んでいた。
幼稚園児かお前はっ!!!働けよ!運賃を取れよ俺からっ!!
その後見たことのあるサイアムスクエア地区の一角が見えたので、降りることにした。
降りる時も車掌さんをチラチラ見ながら降りたのだが、彼はそんなことも気にせず元気に幼児退行していた。
サイアムまでタダで来れた。昨日は130Bくらいかけてここまで来たのに。
まぁ2日目でこの事実に気づけただけで良しとしよう。
さて、サイアムに来たので、当然ウンコをした。そのぐらいしか用が無いからな。
ぶらぶらしたあと、がんばってバスでファランポーンに戻って、そこから歩いてチャイナタウンを見に行った。
チャイナタウンとは、中国から色々な国に移り住んだ華僑たちの集まる一角で、入った瞬間に街の雰囲気がガラリと変わり、本当に中国に来ているかのように感じた。
光と熱気と喧騒にあふれており、大通りには空中にせり出す大きなネオンの看板が何重にも重なってギラギラと輝き、道では人が人を押しのけ、大きなうねりを作り出している。食堂も屋台も中華料理だし、表示は全て漢字だ。
俺は突然異世界に迷い込んだような新しい驚きと喜びに感動しながら大通りをゆっくり歩いた。
道を抜けると急に静かになり、急にタイに戻る。
チャイナタウンは後日ゆっくり探検することにし、今日はカオサンに戻ることにした。
ファランポーン駅に戻り、カオサン行きのバスを探して乗り込んだ。
乗り過ごさないように必死に窓から頭を出してぐるんぐるんさせ、周りの風景を見定めていると、隣に立つ中国人風の青年が何か英語で言ってきた。
しかし俺のリスニング能力の無さで、
「ちゃんとカオサンに行くから大丈夫だよ!」と言っているのか
「このバスはちゃんとカオサンに行くのかな?」と言っているのかわからなかった。うーんどっちだろう。
わからないので、彼を無闇に信じることにし、笑顔で「Yes!!」と頷きそのまま乗っていた。
そして、6割くらいの自信を持ってカオサン周辺に来た!と言える場所まで来て俺がそわそわしていると、彼は笑顔で「大丈夫!次で降りればカオサンだよ!」と言ってくれた。その彼のおかげで、俺は無事カオサンで降りることができた。
それにしても、何故彼は俺がカオサンに向かっていることがわかったのだろうか?俺からヒヨっこ旅人のニオイを嗅ぎ取り、どうせ長旅の始点として有名なカオサンだろうと思ったのだろうか。
そうだとしたら悔しいなぁ。悔しいです。現地人に間違われるくらいにならないと。
カオサンでは、いつもの屋台で「パット・ガパオ(35B)」なるものを食べてみた。
中華鍋に油を引き、豚肉、カットした野菜、そして何らかの草を入れ、ナンプラー、オイスターソース、砂糖で味付けをし、ご飯に乗せて食べるというものだった。最後に「辛いの大丈夫?」と聞かれうなずくと、見るからに辛そうな粉をこれでもか!これでもか!!というくらい入れられ、超激辛のパット・ガパオを食べることになった。
部屋に戻り、翌日からの予定を考えた。
スケジュールも見ずになんとなく明日からパタヤーに行こうと思っていた俺は、3日後にカンボジアツアーが控えているのを思い出し、ツアーの日まではバンコクに居ようと決めたのだ。パタヤーが楽しくて3日で済まなかったらもったいないから。
フロントで延泊の手続きをし、水シャワーを浴びて寝た。
明日はなんだか、運命的な出会いがあるような、そんな予感がするっ☆