ファランポーン駅から地下鉄でシーロム駅へ行き、ルンピニー公園で一休みした。
ルンピニー公園とは、俺が旅行から帰って1週間くらいして、凶暴なデモ隊に占拠され日本でもニュースとなったあの場所である。
俺が行った時は老人が散歩し、おっさんがジョギングし、女学生がピクニックし、ヤンキーが夜中集会するというのほほんとした落ち着ける場所だったのだが。
そこら一帯はビジネス街であったので、俺は公園のベンチに座り、周りにビシバシと林立する高層ビルを見上げながら、たばこをいっぷく……
しようとしたのだが、ジョギング中のおっさんに笑顔で
「こらこらおにーさん、ここはたばこダメだよ」
と諭されてしまった。なんだか和んでしまった。
しばらく和みながら公園の風景や人々を眺めていたのだが、ふと今日の目的を思い出し公園を出た。
そこからBTSと呼ばれる高架鉄道に乗り、バンコクで最もビッグでファンキーでナウでヤングであろうサイアムスクエアへ行った。
まず、果てしなく巨大なショッピングモールがあった。サイアムスクエア地区の超巨大なデパート達は連絡通路でつながっており、入って奥まで行ったら必ず出るのに2時間くらいかかる。そして出れてもそこがどこかわからない。
そして、果てしなく空気が汚い。鼻呼吸で歩いていると、どんどん鼻が詰まっていくのがわかるほどだ。
さらに果てしなくうるさい。工事の音、エンジンの音、クラクションの音、デパートのスピーカーから流れる音楽、全てがドシャシャシャシャーーーと俺の耳になだれこんでくる。俺はうるささのあまり、むしろ大声で歌っていた。こんなにうるさければバレることはないだろう。
ここに来るのは2度目なのだが、またしてもこの巨大な喧騒の迷宮に迷い込んで2時間くらい当ても無く彷徨っていた。
途中日系書店の「kinokuniya」を見つけ、入ってみた。そこには日本でも少しコアな部類の漫画の英語版がたくさん置かれていたので、少し楽しくなった。
それからも少し中をうろついたが、やはり俺のような貧乏旅行者には縁の無いような店ばかりだった。もう来ることはないだろう。……いや、ウンコしに来てやってもいいかな。トイレは無料だしキレイだもん。
サイアムには、前回のタイ旅行でお世話になった旅行代理店の人にあいさつに来た。ついでにバンコクの情報がもらえればと思っていた。
タイで最も高いバイヨーク・タワーの隣にあったその旅行代理店は、潰れていた。カフェになってた。
目的を失ってしまったので、うるさくて汚くてでかいこの町をうろつき回ることにした。
適当に見つけた店を冷やかし、屋台でラーメンを食べ、たばこでいっぷくし、ふらふら歩いていると、BIG-Cという巨大なディスカウント・スーパーにたどり着いた。まさに欧米的な作りのスーパーで、日用品から食料、衣類、玩具まで何でも低価格で揃う便利な店だった。
サンダルを現地で買おうと思っていたので、安くて丈夫そうなものがあれば買いたかったのだ。
靴のコーナーへ行くと、ワゴンにサンダルが山積みにされており、その中央には「39B」と書かれたプレートが立っていた。
日本円で約120円というその安さに惹かれて、その中から丈夫そうなサンダルを厳選して買うことにした。
レジへ行き、若い男のレジ係に100B札を渡した。
……
なぜか、おつりが1Bだった。
39Bのサンダルを買って100B札を出したのだから、おつりは61Bのはずだ。
俺は1Bのコインを手に乗せたまま、レジ係の顔を見て「どうした?」という顔をしていた。
しかし彼も動かない。「どうした?早く行けよ」という顔で俺を見ている。
仕方無いので、言った。
「おい」
「はい」
「つりが足りないよ」
「……はぁ?」
……このヤロウ……
「39Bだろ?」
「99Bです」
俺はプチンときて、持てる英語力の全てを駆使して、言ってやった。
「……おいお前。俺は間違いなく39Bと書かれたワゴンからこのサンダルを取った。そしてお前は強情にもずうずうしくこのちっぽけなサンダルを99Bと言い張り、俺から60Bを騙し取ろうとしている。お前は自分で恥ずかしいと思わないのか?異国からはるばる来た貧乏旅行者を騙し、たった60Bのためにこんなくだらないウソをつくなんて。俺は帰ったらみんなにこう言うだろう。『タイ?まぁよかったよ。国民が嘘つきだという点を除けばね』 よく考えろ。こんな下等で下劣で両生動物ののクソをかき集めたほどの価値すらないささいなウソで、日本におけるタイの印象がガラリと変わってしまうんだぞ。お前にはタイ人としての誇りがないのか??」
……嘘だッッッ!!!!!こんなこと言えるわけねーーーーーー!!!!
俺はただ
「サーティナイン!!サーティナインッッッ!!!」とわめいていただけだ。
レジ係の男は困惑し、上司と思われる中年の女性店員を呼び、聞いた。
「○○さん、このサンダルはいくらですか?」
するとその女店員は、
「……99Bよ。ほら、ここに書いてある。」
と言いながら俺にサンダルの底に貼ってあるタグに小さく書いてあった「99B」の文字を見せてきた。
は……はめられたッッ!?
俺は「ちょっと来い!」と女性店員を引っ張ってワゴンの前まで行き、
「俺は確かにこのワゴンからこのサンダルをとったんだ。ほら、39Bと書いてあるだろう?」
と言うと、女性店員は何の迷いも無くワゴン中央に立つ「39B」と書かれたプレートをくるりと半回転させ、裏側に書かれていた「99B」の文字を俺に見せ付けた。
「このワゴンの、このプレートから向こうにあるのは、99Bなのよ。」
……うそぉ……
俺は今さら後戻りできないテンションで店員をまくし立てていたので、そのままキレ気味に「返品しろ!!」と言い普通に返品してもらい、そそくさと店を出た。
あー恥ずかしかった。