一人の旅行者は異国の屋台で不可思議なパッタイを『貪』り続ける。


とりあえず日が照りつけ過ぎる正午を部屋の中で過ごし、空が少しだけ赤みを帯びてきた4時ごろ、俺は気合を入れ直して再度外出した。
カオサン通りは、まさに人の洪水という感じだった。日本で言えば「お祭り」とか「花火大会」の感じに似ている。大して広くも無い道の両側には屋台やおみやげ屋、飲み屋、安宿、旅行代理店がぎっしりと敷き詰められ、道には屋台メシを持ってあっちゃこっちゃへ歩く欧米人、ブリキのおもちゃを大量に担いで何やら叫びながら練り歩いている売り子、タトゥー屋、飲み屋、生絞りオレンジジュース屋、Tシャツ屋、安宿の客引きなどであふれていた。
これだけ敷き詰まっていれば、ここが「バックパッカーの聖地」と呼ばれる理由もわかる気がする。 ここには、旅人に必要な全てのものが詰まっているようだった。

ひとしきりカオサン通り周辺を歩いた後、俺はとある旅行代理店へ入り、6日後のアンコールワット観光ツアーに申し込んだ。
最初に行く旅行代理店だけは、日本で調べておいたのだ。日本人スタッフ常駐で、ツアーのことを色々聞くことができた。何よりアンコールワットへ行けるということと、ジブリの「天空の城ラピュタ」のモデルになったと言われている遺跡にも行ける、というので急に楽しみになり、その場で申し込んでしまった。
出発まで6日あるので、それまでバンコクを観光したり、カンボジアのビザを取ったり、バンコク近郊のパタヤーやカンチャナブリーへ行ってもいいかもしれない。もう色々と楽しみだ。何をしてもいいんだから。

旅行代理店を出ると、思い出したかのように急激に腹が減り、人生初の屋台メシを食うことにした。
泊まっている宿近くの、ゴリラみたいな顔をしたおばちゃんの屋台へ行き、タイ式オムライスのようなものを食べた。
鉄板に変な油をひき、卵を混ぜ入れて、よくわからない調味料をちょっとかけて平べったい卵焼きを作り、タイ米の上にのせて完成だ。前回タイに来たときは腹を壊すのが嫌で屋台には近寄りもしなかったが、これが意外な程にうまかった。これで一食30Bなのだから、安いものだ。
しかし、これでタイに居る間は飢えなくて済みそうだ。(←これも言ってみたかった。)
でもこんなに消化の良さそうな物を食べたら……
……
ぎゅるるるるるるる……
予想通り、2時間後には俺の荒ぶる胃袋が激しくわなないていた。大食い気味の俺には、あのオムライスは軽すぎたようだ。
この胃袋、どうにかしなければ。今後も2時間に1回食事をしているようでは金がいくらあっても足りなくなってしまう。それでも俺の胃袋は、いくらなだめてもまるで駄々っ子のようにみっともなく泣き叫び続けたので、仕方無く屋台メシを買ってやることにした。
同じく30Bの「パッタイ」なるものを頼んでみた。
まず鉄板に変な油を引き、卵を溶き入れ、カットした野菜、3~4種類の麺、水を入れ炒める。最後にナンプラーと砂糖で味を調え、紙皿に盛って渡される。
おいおい……
この油、大丈夫なの?野菜は?虫喰ってね?水って水道水?さっき麺にハエとまってたよな?ナンプラーってあの腐った魚の臭いするやつだろ?砂糖なの?塩じゃなくて?間違えちゃったの???
と最初こそ考えうる限りの全疑いをもって調理工程を眺めていたのだが、一口食べてみると、食材と調味料が手早い調理と洗練された技によって余すことなく完成されたこの味を作り出すためだけに働いており、日本で言えば少し甘めの塩焼きそばといった感じで、食感、甘み、辛味、ボリューム共に絶妙なバランスで無駄なく配置され、つまりはめちゃくちゃうまかったのだ。というか俺はこの料理にすっかりハマってしまい、カオサン周辺に泊まっている間中、この「パッタイ」を貪るように食べ続けることになったのだった。
前回のタイ旅行で俺はパクチーが食えないということが判明している。その意味では、パクチーの入っていないお気に入りの屋台メシを早々に見つけることができたのは大きい。俺は今後、パクチーを克服するのだろうか。それとも、するりするりとかわし続けることができるのだろうか。

宿に戻り、水シャワーを浴びた。余分に金を払えばホットシャワー付きの部屋をもらえるのだが、この暑いタイではそんなものいらないようだ。汗でベタつき、暑さで火照った体に、水シャワーはとても気持ちのいいものだった。
今日はこれで寝ることにした。夜になってもまだまだ暑かったが、部屋についてる大きな扇風機のおかげで、暑がりの俺でもなんとか眠ることができた。
この日、初日にしてはいろいろできたんじゃなかろうか。明日から本格的に動き出そう。





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