今までの眠気も忘れ、俺は興奮していた。
なぜなら旅が始まってしまったから。重いバックパックを背負って異国の見知らぬ道を歩くなんて、まさに「旅」じゃないか。
ザックを揺すり上げ歩いていると(これ言ってみたかった)、チャオプラヤー川という大きな汚い川に面した公園で、地元のおばさんたちが何やらエスニックな踊りを踊っているのを見かけた。現在時刻は朝6時。朝の太極拳的なアレかな?と思い、ベンチに腰掛けておばさんたちや汚い川、通りがかりのタイ人の顔とかを見ていた。
実はタイへ来るのは2度目なのだ。1度目もバンコクに泊まり、3泊4日でアユタヤ巡り、オカマショー鑑賞、タイ式マッサージをして帰った。だからそんなにカルチャーショックとかは感じない。
しかし、同じアジア人で似ているとは言え、間違いなく日本人とは異なる顔と雰囲気を持ったタイ人を眺めていると、やはり外国へ来たんだなぁと少し………
少し、なんだろう。ドキドキするとか、緊張するとか、でもちょっと嬉しいとか、そんなようなものが色々混ざったような気持ちだ。
しばらくは公園のベンチから見える風景や人を眺めながら、旅開幕の喜びや緊張、不安を頭の中でリピート思考していた。
8時ごろになり、朝はまだ眠そうだったこの町も、すっかり起き上がって動き出し始めたようだ。
俺も動き出そう。まずは、宿探しだ。もちろん予約なんかしていないので、自分の足で歩いて探さなければならない。
とりあえずガイドブックにある安宿街へ行き、この時間でも入れてくれる宿を探す。
何軒か回っていると、1泊190B(バーツ)で個室がもらえる宿を発見したので、チェックインすることにした。バーツとはタイで使われている通貨の名前であり、2009年当時、1バーツは約3円である。
部屋に入ると、そこは病室か、あるいは監獄のような部屋だった。
壁、床、天井、小さな机、ベッドが全て真っ白、天井近くの壁に鉄格子のはまった小さな窓があるだけ。
しんとしたこの部屋の中で座ってじっとしていると、なんだか不気味な気さえしてくる。
だが、いいのだ。キレイなベッドがあり、扇風機もあり、共同だけどちゃんと水洗のトイレとシャワーがある。これから先、もっとひどい部屋にだって何回でも泊まることになるだろう。個室であるだけありがたいじゃないか。
ベッドに横になると、俺は忘れていた眠気を思い出し、そのままベッドに沈むように寝てしまった。
……(-_-)zzz
……zzz
……zzz
………………
……('_')はっ
ここどこだ……??
キョロキョロ…………
……ってタイかよ!!!!!
そうだ!俺は旅行してるんだ!思い出した!!全部思い出した!
これは旅行者にしかわからない感覚だ。旅行して3日~1週間くらいは、寝て起きると「はっ!そうだ俺旅行中だったんだ!夢じゃなかったんだ!」と瞬間的に全て思い出すという一人ビックリみたいな妙な感覚が味わえる。
時計を見ると、12時だった。4時間も眠っていたようだ。とりあえず一服して、外に出よう。歩いてみよう。
まずは、来る時見かけたセブンイレブンで水を買おうと外に出たのだが、いや、これは、まじで、どうしようもなく、疑いようもなく、
暑い。
本当に暑い。日本の7月より暑い。今12月なのに。
しかし毎日この暑さなら、俺はこれに慣れなければならない。この国を旅するんだから。俺は意を決して町へと歩き出した。
……
1時間後、俺は自分の部屋でぐったりしていた。
こんな暑い国旅できるかボケッッ!!!俺を殺す気かっ!!