雨に唄えば 火もまた涼し


イポーへ着いたのは、昼の1時だった。
やはり電車では寝れず、睡魔は限界という壁を今にも突き崩さんとばかりに激しくつっついていた。
町へ着いたらまずは宿探しをしなければならないのだが、この精神的、肉体的状況で安宿を探して重い荷物を背負って歩きまわる気が全く起きなかったので、今回は最初からガイドブックに頼り、駅を出てまっしぐらにその宿へ向かった。
しばらく歩くと、「YMCA・オブ・イポー」というなんともわかりやすい名前の宿へたどり着いた。
今までの経験からして、わかりやすい名前の宿は比較的良い宿であることが多い、という独断と偏見に満ちた分析結果があるので、というか面倒だったので、部屋も見ず、料金も聞かず、とりあえずドミトリーのベッドを一つ借りた。
後で宿を歩いてみると、建物は大きくてなかなかキレイで、料金も15RMという安さだったので、あながちこの分析も間違っていないのではないだろうか?

ベッドの脇に荷物を下ろし、すぐにでも寝てしまいたかったが、最後の気力を振り絞ってシャワーを浴び、たまっていた洗濯を済ませ、死ぬように寝た。

部屋の中

←ベッドに寝転がりながら何気なく撮ったドミトリーの中。
 俺しか居なかったので、勝手に紐を張り巡らせて洗濯物をしている。
 お分かりいただけただろうか……?
 ベッドの柄には、絶対に共演することの無いはずの猫と鼠がいる。
 黒いほうのネズミをパクるのはさすがに怖いので、電気鼠白昼夢猫で再現した、マレー風トムとジェリーとでも、
 言うのだろうか……

起きたら夜の8時半だった。たっぷり6時間寝たので、頭はスッキリ、おめめパッチリ、シャワーを浴びていたので体もシャッキリ良い気持ちだったのですぐに外に出て、夜のイポーの町を歩いた。

クアラルンプールやペナン、マラッカなどある程度メジャーな観光地ではなく、このくらいマイナーな町では、やはり街歩きにも違った楽しさが生まれてくる。
観光客が珍しいのだろうが、歩いているだけでジロジロ見られるし、マレー語や中国語で話しかけられるし、迷ってもないのに道を教えてくれようとしてくれる親切な人もいれば、全くわけのわからない言語でしつこく何かの勧誘をしてくるゲス野郎もいる。
小さい町だったので2時間程歩いて町の外周を大回りに一周してから帰った。

翌日は、町を小回りに一周し、それから巨大な洞窟の中に中国風の大きな寺院があるという「ペラ・トン」へバスに乗って向かった。
「ペラ・トン」へはバスで15分ということだったが、15分たってもそれらしい所へ着かないので嫌な予感がして運賃回収係のおばちゃんに聞いてみると、「もう過ぎたよ」と言う。しかしおばちゃんは運転手へ声をかけてその場でバスを停めてくれ、「ペラ・トン」までの行き方まで教えてくれた。おかげで、それからは迷うこと無く目的地へたどり着くことができた。

「ペラ・トン」はなかなか立派な寺院であった。
洞窟の手前には、「三國無双2」で見たような庭園のようなものがあり、思わず無双乱舞しそうになった。

三國無双2


←なかなか趣のある庭園である。
 
 なんかこんな感じの場所で腕にトンファーつけた奴と闘った気がする。

中に入ると、体育館ほどもあるだろう本当に巨大な、そして静かな洞窟に、たくさんの金キラキンの仏像があり、荘厳な雰囲気を感じた。
とりわけ、千手観音がたくさんの手で無数のメタルポーズをしているロックな仏像を見たときはテンション上がった。

メタルブッダ



 
 命名「メタルブッダ
 ミュージシャンなら一度は訪れておきたい。

さらに奥へ行くと、洞窟の上の山を登る道へと続く階段があったので、登っていくことにした。軽い気持ちで登り始めたのだが、途中から傾斜が45度以上ありそうな本格的な山道を登ることになり、少し後悔した。しかしここまで来て引き返す訳にもいかず、そのまま登り続けた。
しかし、どこまで登っても山頂が見えない。1段が異常に高い階段を登り続け、足が疲れて一休みして上を見上げる度に、「どこまで登ればいいんだ」と思わせるような光景が、しばらく続いていた。しかもだんだん道が「道と道無き道の間」くらいの感じになってきており、非常に不安になった。
ひとつ言っておくけどな、

山を登るとき ルートもわからん!頂上がどこにあるかもわからんでは遭難は確実なんじゃ!
 確実ッ!そう コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実じゃッ!!

そう、つまり、このままでは俺が遭難してしまうのは、
「男子中学生が前を歩く人の後頭部をじっと見つめている時、『なぁ、聞こえてるんだろう?聞こえてるんなら、咳払いを2回してくれよ?』って思念で語りかけている」ってくらい確実だってことだ!
しかも、雨まで降りだしてきた。俺はペースを上げて、息を切らせて山を登り続けた。

それからしばらく登り続け、脚はパンパン、肩でゼェゼェ息をしながらようやく山頂部分にたどり着いた。まさかこんなハードな山登りになるとは思わなかった。
とりあえず一服しながら屋根のあるスペースで休んでいると、それまで小雨くらいだった雨が、どこかでトトロがジャンプ……いや、紐なしバンジーしたんじゃないかと思うような、マシンガンのような豪雨が突然降り始めた。ここまで激しい雨は見たことがない。そんなに降るならいっそ雲ごとまとめて1回で落ちてこいよめんどくせぇからって思うくらいだ。小学生の頃、湿度100%が水中だと思っていた俺でも、「これ90%はあるでしょ」と言うだろう。
とにかく、この状況では下山なんてとてもできない。俺は完全に、この屋根のある2m四方くらいのスペースに閉じこめられてしまった。
しかし、こんな逆境だからこそ楽しみたい。楽しまねばならない。俺はまわりに誰も居ず、豪雨の生み出す轟音で何も聞こえないのをいいことに、雨が小ぶりになるまでの30分程、思いっきり一人カラオケを楽しんだ。

やがて雨も弱まってきたので、急いで山を降りた。洞窟の前の屋台でイポー特産の「ポメロ」という果物を買い、食べながらバス停まで歩くことにした。ポメロはみかんの10倍くらいある大きな柑橘系の果物で、ほのかな甘さと爽やかな風味のあるみずみずしい果肉がたっぷりと詰まっていて、ジューシーで美味しかった。
それからしばらく「ペラ・トン」の周りを歩いたが、バス停を見つけることはできなかった。来るときに降ろしてもらった場所は、どうやらバス停ではなかったらしい。
とりあえずコンパスと地図を使い町へ向かう方角へ歩き、バス停があったら適当に乗っていれば、町には行けるだろうと思っていたのだが、いくら歩いてもバス停が無い。おまけに、降り止みかけた雨がまた強くなってきた。随所で雨宿りしながら、バス停を探して2,3時間歩くと、町まで来てしまった。
この時期、乾季で過ごしやすいのは西海岸側だけらしい。少し内陸の方に来てしまうと、毎日雨が降るようだ。雨ばかり降ってまともに歩けないのでは、これ以上この町に居ても仕方ないと思い、そのままバスターミナルへ行ってキャメロン・ハイランド行きのバスチケットを買ってしまった。
キャメロン・ハイランドとは、高地にある避暑地で、紅茶の特産地らしい。
たまには高原で涼みながら、優雅に紅茶でも飲むのもいいかもな……。
そんな思いを馳せて、俺は翌日のキャメロン・ハイランド行きのバスに乗り込んだ。





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