状況を整理しよう。
現在夜11時15分。
15分後の11時30分に出発するイポー行きのバスに乗りたい。
バスのチケットは18RM。手持ちのマレーシア通貨は10RM。
手持ちアイテムで使えそうな物は、「携帯電話」、「水」、「10RM」、「ガイドブック」、「PSP」だ。
アメリカドルのトラベラーズチェックと日本円の現金、そしてクレジットカードは持っているが、両替屋は閉まっているしカードでの購入もできないらしい。
一見して手詰まり、八方塞がりのこの状況に、何か光明指す最善手を導きださねばならない。
俺の脳内で作戦会議をする7人のこびと達も、煮詰まった空気の中頭を抱えることしかできないでいるようだ。
「くしゃみ」は、しびれを切らして、言った。
「だからさぁ、ふぇっ10RMしか無いんなら近くの安宿でベッドを借りて朝まで待つことすらできないよね?幸い、ふぇっ……このバスターミナルには24時間営業の売店あるし、外に出ればふぇっネットカフェもあるし、PSPしたり本読んだりして朝両替屋が開くまで待つしかないんじゃぶぇっくしょん!!!」
「ねぼすけ」は、とろんとした目で、言った。
「ふぁぁ……そうだよ……もうねむいし、そうと決まったら早めにどこかに腰を落ち着けてもう休もうよ……」
「おこりんぼ」はすかさず突っかかる。
「おいまて!そんなの最悪だ!こんなむさくるしい所で朝まで立ち往生だなんてふざけてる!まっぴらごめんだ!!」
「せんせい」は、やさしく呼びかけるように、言った。
「みんな聞いて。シンガポールで会った金子君を覚えている?彼は昨日このクアラルンプールに着いて、一泊してからペナンへ行くと言っていたよね。つまり彼は今このバスターミナルに居る可能性がある。彼に連絡して、もう10RMだけ日本円かタイバーツで交換してもらってチケットを買えば、11時半のバスに乗れるかもしれないよ。」
「せんせい」が良いこと言ったので、早速シンガポールで聞いた彼の電話番号にかけてみる。
3回かけても繋がらないようなので、メールを送り、待つことにした。11時半まであと10分。それまでに連絡が無ければ、いよいよ立ち往生になるかもしれない。
…………
連絡が無いまま、刻一刻と時間だけが過ぎてゆく。
「おとぼけ」はひとごとのように、言った。
「こないみたいだねぇ~。あ、あれ、何を待ってたんだっけ?忘れたけど、こないならしょうがないよ~。おうちかえろ~」
「おこりんぼ」がおこりだし、「せんせい」が止めに入り、「おとぼけ」がまた場を乱す。「ねぼすけ」は寝てるし、「くしゃみ」はそれどころじゃない。
俺の脳内がビジー状態になり緊急停止モードになりかけたとき、隅のほうで何かが動いた。
??「あ……あのぉ……」
誰も聞いてない。
??「あ……あのっっ!!」
突然の絶叫に、荒れていた場は静まり返る。
張り詰めるような静寂の中、沈黙を破ったのは、「せんせい」だ。
「ど……どうしたんだい、『てれすけ』?」
「てれすけ」は、もじもじしながら、言った。
「あ……あの……ちょっと思いついたっていうか……いや多分ダメなんだけど……なんていうか……」
「おこりんぼ」は大声で、言った。
「なんだよ!言いたいことがあるなら、ちゃんと、言えよ!!」
「てれすけ」は、はじけるように、言った。
「はっはいっ!!ガイドブックの58ページを見てください!!ここら辺の地図なんですけど!ここから歩けるところに高架鉄道の駅がありますっ!24時までと書いてあるので、今から急げば終電も間に合います!そこからKLセントラル駅というマレー鉄道の通る駅に行き、イポーまでの列車のチケットを買うというのはどうですかっ!!列車のチケットならカードで払えたはずですっ!!」
「おこりんぼ」は、ふるえながら、言った。
「『てれすけ』おまえ……」
「てれすけ」は、びくっととびはねて、言った。
「ごっごめんなさいっ!こんなうまくいくわけないですよねっ!すいません!もう僕黙ってますから!」
「せんせい」は、さとすように、言った。
「違うよ『てれすけ』。それが「正解」だよ。君が教えてくれたんだ。おてがらさ。「うまくいくかどうか」は重要なことじゃない。君が示してくれたのは、迷うこと無く、動き出せる道。「迷い」が無ければ、なんだってできるさ。そうだろう?みんな。」
みんなはすっきりした笑顔で、うなずいている。「てれすけ」が示した道を進むことに、何の疑問もないらしい。あの「おこりんぼ」でさえも。
「てれすけ」は、びっくりした顔で、言った。
「みんな……」
ずっと隅で話を聞いていた「ちゅうに」は、手をぽんっとひとつ叩き、言った。
「……と、こっちはそういうことだから。あとはよろしくな?『宿主さん』……」
「おこりんぼ」は、いぶかしげに、言った。
「だれだよお前」
―――――ここまで俺の脳内―――――
さて、長い茶番劇を終え、迷いの無くなった俺は、すぐさま歩き出し、KLセントラル駅へ向かった。
10分程歩き駅に着きホームで電車を待っていると、メールが届いた。金子君からだった。
「今バスターミナルに居る!1時のバスでペナンに向かう!」
1HIT
遅ぇーーーーーーーーよっ!!!何というタイミングの悪さ!芸術的と言っても過言ではない!でもこんなことではくじけないぞ!「迷い」の消えた俺は無敵なんだ!
KLセントラル駅に着き、駅員さんのところへダッシュで駆け寄る!
「イポーに行きたいんだけど……!」
「え~っ……と、イポー行きは……3時間後だね」
2HIT
ぐう……3時間か……少し長いが、劣悪環境のバスターミナルで朝まで待つよりかはマシだった。まだくじけない俺!
「チケット売り場はどこ?」
「今は閉まってるよ」
3HIT
なにィィィィ!?まだだ……まだ頑張れる……!!
「早くイポーに行きたいんだけど、どうしたらいい?」
「それなら、列車の中でチケットを買うといいよ。少し高いけど、そのほうが早い」
「それは、カード使えるのかな?」
「使えないよ」4HIT
「チケットブースはあとどのくらいで開くの?」
「う~んと、6時間くらい」5HIT
「両替所が開くのは?」
「あと7時間」6HIT
「その次の列車は?」
「あと9時間」
弱P、弱P、→、弱K、強P
「滅殺!!」
くぁwせdrftgyふじこlp;@:「 2832HIT
ウーワ、ウーヮ、ゥーヮ、……K.O
もう……いいよね?俺頑張ったよね?もうゴールしてもいいよね?
殺意の波動に目覚めた駅員にKOされた俺はふらつく足取りで駅構内にある24時間営業の「マクドナルド」という「ゴール」へ行き、なけなしの10RMをはたいてマックチキンとポテトを買い、席についた。
できることは全てやったはずだ。燃やせるものを全て燃やして「燃え尽きた」のだから、逆に清々しいくらいだ。
それから、もう何周したかわからないボロボロの本を読み、電池が尽きるまでPSPをし、延々と日記を書き、永遠にも思える時間をつぶし、なんとか朝8時になった。
とりあえず両替屋が開いたので1000バーツ(3000円くらい)分だけ両替し、イポー行きの列車のチケットを買った。
4時間ほど列車に揺られ、昼の1時にようやくイポーの町へたどり着くことができた。眠気は限界を超えており、俺の脳内には6000人ほど「ねぼすけ」が跋扈していた。
もう町歩きとか宿探しとか全てが面倒だ……どこでもいいから部屋を借りて、寝てしまいたい……