Why are Leaves Green,Yellow or Red?


翌日は、シンガポール市街の北にある「リトル・インディア」から、南へ向けてひたすら歩いた。
途中、小高い山の頂上にある、大きな木が鬱蒼と生い茂るだだっ広い国立公園に入り、ぐるっと一周した。公園の案内を読む限り、この公園はマダガスカルとか色々な所からでっかい木をズボズボ抜いてバシバシ植えた植物園のような公園のようだ。
ここでも高いところから街の俯瞰風景を見てみたくなり、山の頂上からシンガポール市街を見下ろしたのだが、街にそびえ立つ高層ビルの方が全然高かったので何も見れなかった。

それから、そのまま歩いて市街を縦断し、地図では最南にあるシンガポールの鉄道駅へと到着した。マレー半島を縦断する「マレー鉄道」の終着駅だ。俺はとうとうマレー半島を陸路で縦断し……
駅の食堂でマレー風の定食を食べながら、俺はあることに気づいた。


……あれ……?
おれ……シンガポールまで鉄道で行くとか言ってなかったっけ……?
ほぁんほぁんほぁん………

「バスならすぐに出れるのだが、マレー半島を列車で縦断することに無駄なこだわりを持っている俺は、その場で列車のチケットを買ってしまった。」          ※第29章 「肉のあたる窓際」より


いつの間にかそのこだわりを忘れていたことに、少しショックを受けた。都市間を移動する場合も、ルートによってはバスの方が安くて早くて快適ということもあるのだが、理由も意義も無いこだわりだからこそ大事にしていたのに……。
このまま俺は色々なこだわりや目指すもの、帰るべき場所を忘れ、失っていき、しまいには1年後に
「……あれ?俺3ヶ月で帰るとか言ってなかったっけ……?…………まぁいっか!
みたいなことになってしまうのだろうか。旅によって、今まで自分を知らず知らずのうちに縛り付けてきた様々なしがらみや枷が少しずつ外れていき、ひとつひとつ自由になっていく感覚はとても心地良いものだ。しかしそれにより、俺が今まで大事にしてきたものを失ってしまう、そしてそのことにすら気づかないというのは、とても怖いことだ。
旅の恐ろしい一面に怯えながらも、それも含めて「旅」であるなら俺はそれを受け入れるべきなんじゃないか、頭で考えてどうこうという問題ではないんじゃないか、なるようにしかならないのだから流れに身を預けるのが正解なんじゃないか……、と、そんな風に半ば自棄になり思考停止状態に陥りかけたとき、友達からメールが届いた。
「生きてるか?」
どうやらその友達は、俺が生きてるかどうか友達と賭けをしたらしいのだが、全員死んだ方に賭けたので賭けにならなかったらしい。
つまり掛金は全額俺がボッシュートしなければならないという事だ。これで帰る理由ができた。俺はこの旅を3ヶ月できっちり完遂させ、地獄の取り立て人として生きて奴らの前に現れなければならない。
危ないところで沈没の危機から救われた。……とそれっぽく書いてはいるが、要は「なんかどうでもよくなっちゃってたけど友達からメール来てちょっと元気でた」ってことだ。それだけだ。

元気が出たところで、俺は駅から更に南へ歩き、「セントーサ」というテーマパークらしきものがあるという島へ向かった。
入ってみると、ディ○ニーシーをまんまパクってショボくしたような造りで、ジェットコースターや観覧車、水上ショーなどその他多数のアトラクションがあった。アトラクションはどれも10ドル以上したので、入島料の3ドルだけでどこまで楽しめるかをチャレンジしてみた。
まず、ディスカバリーチャンネルをそのまま展示場にしたような無料の展示コーナーへ行き、自然の生態系に触れた。設置されていたスクリーンには、様々な鳥類の親鳥がひなに餌を運んできて与えるシーンだけを集めた映像が延々と流れていたので、ループするまで観ていたら1時間以上経っていた。


何が葉か赤を緑、黄色するか?




←展示コーナーにあった怪文
 「何が葉か赤を緑、黄色するか?」と書いてある。
  もう少し……もう少しで「惜しい」のにっっ!


それからビーチへ行き、波の音を聞きながら、子供たちの無邪気に遊ぶ姿をしばらく眺めていた。
そして、キレイとも汚いとも言えない微妙な海を見ながら、浜辺を歩いて島を半周ほどしたところで限界がきた※1ので島を出た。  (※1=つまんなさといたたまれなさが)

それから、地下鉄でチャイナタウンへ行き、しばらくうろついた。タイのチャイナタウンのように、ネオンギラギラ、熱気ムンムン、路地はモッシュ地獄などという感じは微塵も無く、なんだか小ぎれいでちんまりとまとまっていた。昔アニメのドラえもんで見た「きれいなジャイアン」が気持ち悪いのと同じで、きれいなチャイナタウンにも気味の悪さを感じてしまった。
チャイナタウンのフードコートでパッタイを売る店を見つけたので、懐かしくなり食べることにした。それは、もはや巷では
「パッタイに愛されし男」
「パッタイ界のエターナルフォースブリザード」
「通販コスメランキング パッタイ部門第一位」
「東洋のパッタイング・ヒューマノイド」
など数々の異名を持つほどのパッタイ通の俺にして、そのパッタイは「この男、できる……!!」と思わせるほどのパッタイであった。
はやくタイに戻ってあのオバチャンのパッタイが食べたい!!そう強く思った。

食べ終えてから宿に帰り、コモンルームでみんなでホラー映画を見た。「パラノーマル・アクティビティ」という映画で、後に日本でこの映画が公開されたとき「これ見たわー半年前くらいに見たわーシンガポールで欧米人と一緒に見たわー」とミサワ風に言ってまわったものである。
部屋に戻ると、日本人が居た。同年代の男性だったので声をかけてみると、同じ東京に住む大学生であることがわかった。コンビニでビールを買い、飲みながらしばらく話した。彼は金子君と言い、ギターをかついて世界一周をしているのだそうだ。
世界一周……。この旅も、最初は世界一周する事も視野に入れていた。結局は金の都合で諦めたのだが、今になって問題は金ではなく期間の方にあったと気づいた。3ヶ月で世界一周などバカげている。金子君も8ヶ月で世界一周する計画らしく、東南アジアを1ヶ月で回らなければならないそうだ。そんな超特急の旅は、俺には無理だ。タイからマレー半島を南下しただけで1ヶ月もかかっているのだから、ちゃんと回ろうと思ったら東南アジアだけで3ヶ月は欲しい所だ。
金子君は今日シンガポールに着いたのだが、明日の朝にはもうマレーシアの首都であるクアラルンプールへと出発すると言う。あまり無理な移動をして体を壊さなければいいが。お互いしばらくは東南アジアをうろつく身である。また縁があれば会えるかもしれないので、番号とアドレスを交換しておいた。
それから彼とは、旅や音楽の話をしたり金子君のギターで遊んだりしていたが、彼も明日は早いというので2時頃寝ることにした。
朝起きると、もう彼の姿は無かった。

この日は激しい雨が降り続いていて、とても外を歩き回る気にはなれなかったので、ほとんど宿に引きこもって過ごした。こういう雰囲気の良いバックパッカーズなら、コモンルームにいるだけでそれなりに楽しいのだ。
欧米人が真剣な顔つきでノートパソコンとにらめっこしているので、何をしているのかと思い覗き込んでみると、日本のアニメを観ていたり、エミュレータでFF4をやっていたりした。すごく親近感がわき、俺も負けじとコモンルームでPSPをやりたおした。
それから、宿のフロントで翌日のクアラルンプール行きのバスをブッキングしてもらった。この快適さと刺激の無さに体が溶けて動けなくなってしまう前に、どこか別の街へ行かねば、と思ったのだ。とりあえずクアラルンプールまで行けば、そこからまたどこへでも行けるだろう。
翌日の夕方に、バスは出発した。そのバスは2階建てで広々としており、一人ひとりにテレビと電源が付いていた。まさにVIPバスである。
バス内では、ずっと「次はどこへ行こう」と考えていた。このままタイへ向けて北上してしまうのもいいが、それではマレーシアでは西海岸の3都市しか訪れていないことになる。このままペナンへ向かってしまえば、同じころ金子君も居るのでまた会おう、なんて言っていたのだが、やはりこのまま北上してしまうのでは物足りない気がした。彼には申し訳ないが、クアラルンプールとペナンの間にあるイポーという町に行ってみることにした。

クアラルンプールのバスターミナルに着き、そのまま夜行バスにのってイポーまで行ってしまおうと思った。現在夜11時15分。チケットブースへ行くと、15分後の11時30分に丁度イポーへ向かうバスが出ると言う。ナイスタイミングだ。
しかし、チケットを買おうと財布を出した時点で、あることに気づいた。


……マレーシアの通貨が無い……!!
そうだ……シンガポールの物価が高すぎて、手持ちのマレーシア・リンギット(RM)までシンガポール・ドルに替えてしまっていたのをすっかり忘れていた。偶然小銭で残っていた10RMがあるにはあるが、イポーまでのチケットは18RMなので買うことはできない。 カードでの支払いはできないらしい。こんな時間では両替屋も閉まっている。金がなくては宿にも泊まれない。まさに八方塞がりである。
どうする……?どうするよ俺……!?
俺はチケットの売り子の「可哀想な子……」という視線を背中に受けながら、その場を離れた。とりあえず、バスターミナルのベンチに座って一服する。そして目をつむり、一人脳内作戦会議を開始した。

     ―――――ここから俺の脳内―――――


ただいまよりっ!!脳内緊急作戦会議を始めるっ!!ミッションは『この現状を打破すべし』だ!!総員速やかに席につけェ!!寝ている者は叩き起こせェっ!!マスかきやめ!!パンツ上げっっ!!!手持ちのツール『携帯電話』『水』『10RM(リンギット)』『ガイドブック』『PSP』を最大限駆使し、現状を打破する作戦を立てよっ!!それではっっ!!
     作 戦 開 始ミッション スタートォォォッ!!!





次へ
TOP