陽気なデブのハワードに誘われ、俺たちはサイクリングを開始した。(2回目)
「今日はどこへ行くの?」
「ショッピングさ!」
さっき行ってきたんだけど・・・
どうやらついさっきまでうろついていたショッピングモールに行くらしい。ハワードという男。俺に二度手間の徒労感を感じさせることにかけてこの男の右に出る者はいない。
サイクリングのメンバーは、昨日飲みに行った4人と、韓国人の女の子が一人、中国人の青年が一人参加した。中国人の方はもちろんハワードの友人である。
昨日のサイクリングでは、みんな宿にあったママチャリを貸してもらう中、アンダースというスウェーデンの旅人だけは自前のロードバイクで軽快に走っていた。しかし今日は部屋からロードバイクを引っ張りだしてくるのが面倒になったらしく、彼もママチャリで行くことにしたようだ。昨日は使い込まれたかっこいいロードバイクで颯爽と走っていた彼が、日本製のママチャリに乗って「オゥ!!ベリーディフィカルト!!!」とか言いながらヨタヨタ走っているその姿は非常に滑稽であった。欧米人のママチャリの似合わなさは半端じゃない。いつもは落ち着いていて紳士的な彼も、今だけはみんなの笑い者だった。
ハワードは、最初に地元の人々が使うような市場や、日本でいうところの100均である2RM均一ショップなどに案内してくれた。
市場では、その空間に入った瞬間に強烈な刺激臭が鼻をついた。
「うわくさっっっ!!!」
「ふふふ・・・あれかな」
そう言ってハワードが指さしたのは、うずたかく積まれたドリアンの山であった。その店の脇には、中身を抜かれたドリアンの剥ぎ取られた堅固な皮が大量に放棄してあった。
「食べるかい?」
ドリアンなんて、食べたこともないし見るのも初めてだ。においは強烈だが、なんとか食えそうな気がする。納豆もブルーチーズも、嗅ぐとくさいけど食っちゃえば美味いし。なにより初めてのことなので、できるだけ体験しておきたい。
俺はエリさんと割り勘でドリアンをひとつ買い、食べてみることにした。
黄色くてムニュムニュしたドリアンの実を一房つまみ、口に入れた。
ぱくっ
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…………
…………………
………あ、やばい、吐きそう………
なんだこれくせえーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!
納豆やブルーチーズは嗅いだらくさいけど食うとそうでもない。
でもこれは嗅いだらくさいし食ったらその2億倍くさい。
やばい!やばいよ!ねえ!くさいよ!口の中がくさい!!口から鼻にかけて全部くさい!!無理無理!飲み込めない!いやだ!私の中に入ってこないでェェェ!!
ごっくん………あ、飲んじゃった。……………でもまだくさい!ねっとりねばねばしてるからくささがしつこい!!
これをフルーツと呼ぶのは間違ってる!何が「果物の王様」だよ!!どう考えても「南国の生ゴミ」だろうが!!
俺はドリアンのくささとドリアンを食ってしまった自分のくささにしばらく悶絶していたのだが、エリさんは「え、おいしいですよ?」と平気な顔でパクパク食っていたので全部あげた。
それから、やはり今日の昼に行ったショッピングモールに行くことになり、雑貨店や衣料品店などを見て回った。その中に、「ファクトリーアウトレット」という店があり、工場で生産した時点で小さい傷や汚れがついてしまったブランド品を安く売る店があった。見てみると、タケオキクチやBEAMSの1万~2万円するシャツが1000円くらいで売られていたので少し欲しくなったが、バックパッカースタイルの旅でそんなものを買っても本当にどうしようもないのでやめておいた。俺は旅の中で、色々な意味で余計な物を切り捨てて軽くなっていきたいから。
ひと通りショッピングを終えると、意外な程あっさりと宿に帰った。しかし、そのことで皆拍子抜けしたせいかなんとなく宿のロビーに残ったまま、喋ったりパソコンをいじったり音楽を聞いたりして、それぞれが思い思いに過ごしていた。ハワードはDJをしているだけあって音楽に詳しく、俺も日本でバンドをしているので音楽の話で盛り上がった。エリさんは高校時代、The OffspringやGREENDAY、SUM41などの洋楽をバンドで歌っていた経験があるらしく、俺がギターでSUM41の曲を弾くと合わせて歌ってくれた。
やがてハワードはどこからかトランプを持ち出し、カードマジックをいくつか見せてくれた。その中でも特に鮮やかだったひとつを教えてもらい、アンダースと一緒にずっと練習していた。帰ったら皆に見せてやろう。
更にハワードはYoutubeでおもしろ動画を見せてくれたり、昔の写真を見せてくれたり、なぜかカンフーを教えてくれたりして、夜中まで俺たちを楽しませてくれた。
まだまだ彼は遊び足りないようだったが、明日は11時発のバスに乗らなければならない。もう夜中の3時近くになっていたので、相部屋のアンダースと部屋に戻り、寝ることにした。
翌朝は9時に起きて急いで準備をし、10時に宿を出た。この宿には3泊したが、宿を出るとき、ハワードは本来なら1泊13RMのところ1泊11RMでいいよと言ってくれた。しかし、彼のおかげで楽しい思い出がたくさんできたので、40RM置いて出てきた。またいつかこの宿に泊まりにきたいと思った。
宿の近くのバス停からバスターミナルまで、バスで30~45分程かかるので、急いでバス停へ向かった。バス停に居た中国人のおばあちゃんとジェスチャーのみで会話しながらしばらくバスを待っていたが、一向に来る気配がない。11時にシンガポール行きのバスは出てしまうので、これでは間に合わない。俺は10時半になったところでバスを待つのを諦めた。急いで大通りへ行き、タクシーをつかまえようと思ったのだが、なかなか現れない。こんな時に限って!しばらく待ってやっとタクシーが通りかかり、路肩で止まったので、駆け寄り声をかけると「予約の客を待ってるんだ」と断られた。その後2回タクシーを見つけたら2回とも断られ、10時45分になった。もうダメかと思ったが、奇跡的に現れたタクシーに駆け寄り、今度はいきなり「バスターミナルまで10分で行けるか!?」と聞いた。おっとりとした表情の運転手はおっとりと「イエス」と答えた。少し心配になったが最早選択の余地はない。急いでタクシーに荷物を突っ込み、「11時にバスが出ちゃうんだ!!」と言うと、運転手はおっとりと「オーケー」と言い車を発進させた。運転もおっとりかと思えば、意外と知る人ぞ知る裏道を爆走してくれたおかげで、7分で着いた。素早く料金を払ってタクシーを降り、自分が乗るバスの停留所まで15Kg近くあるバックパックを背負って走った。5分で目的のバスを見つけ、確かにシンガポール行きのバスであることを確認すると、朝ごはんがまだだったので30秒で近くの売店でパンと水を買い、バスに飛び乗ると、同時にドアが閉まり、バスは発車した。ギリギリセーフ!
慌ただしかったがこれでマレーシアの旅は一旦終了だ。今日からシンガポールだ。噂によるときれいだし英語通じるしこれまでに比べればずいぶんと楽できそうだ。待ってろマーライオン!今行くぞ!!