こんな気持ちのままじゃどこへも行けやしないでござる の巻


陽気なデブのハワードに誘われ、俺たちはサイクリングを開始した。
ハワードは海岸線、サビエル絡みの有名な建物、景色の良い撮影ポイントなど色々な場所に連れて行ってくれた。連れ回された、と言った方が近いだろうか。彼は先頭を走りみんなを先導していたのだが、彼がおすすめする撮影ポイントにたどり着く度にストップし、
「ほら!ここキレイだろう!撮りなよ!」
景色の押し売りをするのだ。エリさんが
「いや、私は大丈夫だよ」
とやんわり断っても
いやいや!撮りなって!!
何故か引かないので、カメラを首から下げていたエリさんとアンダースは半ば強制的に写真を撮らされていた。さらにこれが2分に1度あるのでなかなか軽快なサイクリングにはならなかったが、ハワードがいい奴であるのはわかりきっていたし彼なりに旅人にこの街を楽しんでもらおうと頑張っているのがわかっていたので、俺とエリさん、アンダースは顔を見合わせ苦笑いする他なかった。

ひと通りサイクリングを楽しみ、川沿いの広場で一休みしているとき、一緒にサイクリングを楽しんだ仲間を見渡して、俺はあることに気づいた。


…………なんか増えてね?

最初5人くらいだったのに、今7人くらいいる。しかもなんかあたかも最初から居るかのような空気出してるし………
「あの人だれ?」
とハワードに聞くと、
「友達だよ!」
と答える。そういえばサイクリング中ハワードはやたらと電話していたようだ。その時に仲間を集めていたのだろう。
その後もサイクリングを続けたが、ハワードは次々と友達を呼び寄せ、最終的に10人を超えるチャリンコ珍走団が結成され、マラッカの街をチリリンと爆走した。
さらに今日サイクリングで走ったコースは、昨日と今日で俺が必死に歩いて回ったコースを完全にカバーしており、ちょっと損した気分になった。

ひとしきり走り終え、宿に引き返した。俺は今日歩いた分とサイクリングの分の疲れと、二度手間の徒労感ですぐに寝てしまいたかったが、ハワードは驚くべきことを言い出した。
「さて!ビールでも飲みにいくか!!

お前はお泊り会の時の中学生かッッ!!なんでそんなに元気なんだよ!
しかしもったいないのでよっぽどの事が無い限り現地人の誘いなんて断れない。俺は行くことにした。
ハワードがサイクリングの途中で呼び出した友達はみんな予定があるとか言って帰っていったので、結局行くのはハワード、俺、エリさん、アンダースの4人になった。
宿から歩いて5分の飲み屋に着き、喋りながらビールを飲んでいると、ハワードがいきなり隣のテーブルで女性と飲んでいた欧米人に馴れ馴れしく声をかけた。どうやら友達だったらしい。こいつどんだけ友達いんだよ……とあきれていたのだが、なんとその欧米人の連れの女性は日本人だった。欧米人はスコットランド生まれの青年で、旅行中のようだ。名前がわからなかったので、有名なスコッチウイスキーの名前をとって、ジョニーと名付けた。日本人女性はヨーコさんと言い、関西弁で喋るギャルだった。彼らを入れて、6人で飲むことになった。
ヨーコさんはオーストアリアにしばらくいたらしく英語がペラペラなのだが、日本語で話す時はいきなりギャル語風の関西弁になるのが面白かった。ジョニーと英語でペラペラと話し、その内容を日本語で通訳してくれる時などは、
「 ナょ ω カゝ ぁ ~ ┐″ └| 〒 ィッ ゙/ ュ @ 友 ぇ幸 カゞ ぁ ~ マ マ レニ 中 才旨 ナニ τ ナニ ら ぁ ~ξ @ まま ぁ ~中 才旨 才斤 られτ ぇ ~Зヶ月ξ @ まま ゃっ ナニ ω ゃっτ ぇ ~~!! ≠ ャ ノヽ ノヽ !! マ千゛ ゃ レよ″ < ナょ ぁ ~ レヽ ??」

(翻訳「いわゆるブリティッシュの友達が母親に中指立てたらですねww
   オウフwww拙者『ブリティッシュ』などとつい専門用語がwww
   『ブリティッシュ』とはつまり『英国紳士』という意味でしてwww
   ドブフォwwww『紳士』と言っても『変態という名の紳士』という意味ではござらんよwww
   ついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬wwww
   フォカヌポウwwwwこれではまるでオタクみたいwww
   拙者オタクではござらんのでwwwコポォ」)

と、こうなるのだ。………ってしまった!!逆方向行きすぎた!!

こんな感じで、わからない所はヨーコさんに通訳してもらいながらビールの中瓶を5本程飲み、酔っ払ってきた頃にはもう2時を過ぎていたので、飲みはお開きになり、チームハワードもさすがに解散になった。

マラッカ飲み




←マラッカ飲み写真。左からアンダース、俺、エリさん、ハワード、ジョニー、ヨーコさん


俺は歯磨きだけして速攻で寝に入った。

翌日は昼過ぎに起き、二日酔い気味の頭を頑張って持ち上げ、この街へ来たときに使ったバスターミナルへ行った。そして、翌日のシンガポール行きのチケットを買った。ここは楽しい街だが、楽しい街ほど長居せずにすぐに通り過ぎなければ、沈没の危険が増してしまう。「沈没」とは、ノープランな旅の中、本来なら何泊かして通り過ぎるはずの街で、いつの間にかずるずると滞在期間が伸び、ついには何ヶ月、何年と長い間その街、その宿から出られなくなってしまう現象のことである。どこからか来て、またすぐどこかへと去っていく、そんな無責任な旅人であることにすっかり心地良さを感じてしまっている俺は、この街の居心地の良さにとりつかれてしまう前に、去っていくべきだと感じた。

チケットを購入した帰りに、マラッカのショッピングモールのあたりをうろうろしていると、なんとあの「ダイソー」を見つけた。100円均一でおなじみの、あのダイソーだ。嬉しくなって中に入ると、店内は日本製品、日本語で埋め尽くされていた。値段は、5RM(150円)均一だった。
俺は「無きゃ無いでいいけどあったらそれはそれで便利なもの」が大好きなので、100均のような店に来ると我を忘れて物色してしまうのだ。
色々と迷ったが、なんとか「緑茶」「蚊取り線香」「アイマスク」の3点にしぼることができた。こちらで「緑茶」や「紅茶」を飲もうとすると、もれなく激甘なので、砂糖の入っていない日本風の緑茶が飲めるのはとてもうれしかった。

満足して宿に帰ると、ロビーでハワードが待ち伏せしており、こう言い放った。
「リュウ!サイクリングに行こう!



………デジャヴだ……
なんかこの旅デジャヴにさいなまれることが多いな……





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