あまりにも怪しすぎるマレー人の男の、意外な優しさに触れて俺は嬉しかった。
彼はさらに続けた。何と日本語で。
「日本のドコに住んでる?」
「トウキョウだよ」
「トウキョウのドコ?」
「……ゴタンダ」
「……シラナイ……」
知ってたらすげーわ。
「ワタシはオギクボに住んでたよ。スギナミ?」
何と!荻窪周辺に高校の母校があるので、荻窪は3年間通いつめた町だった。
彼は、荻窪のとあるレストランを経営する友人を手伝っていたらしい。
彼に
「何で日本語しゃべれるの?」
と聞くと、
「勉強したからだよ!」
と怒られてしまった。そりゃそうだ。
「最近は日本人イッパイだからね……」
そうつぶやく彼の姿は、一瞬怪しげなマレー人ではなく怪しげな日本人に見えた。
しばらく彼と雑談をしていると、近くに白人の旅行者カップルが通りかかった。
すると彼はすぐさま駆け寄り、
「ヘイミスター!パラセイリングしない?」
と声をかけた。
なるほど、これが彼の仕事だったのだ。マリンスポーツの客引き。
通りかかった観光客に次々と声をかけていくが、観光客たちはいつぞやの俺のように無表情で
「ノーサンキュー」
と彼を冷たくあしらうばかりだった。
客を見つける度に駆け寄っていき、撃沈しては
「ダメだった……」
と悲しげな顔で戻ってくる彼は、なんだかとてもけなげで一生懸命に見えた。というかちょっとかわいかった。
次第にビーチにも人が増え始め、彼も忙しくなってきたようなので、俺は
「がんばれよ……」
と呟いてその場を去った。
それにしても暑い。今日の太陽は容赦がない。
先日のドイツ人とのツーリングで、Tシャツから出ている二の腕から下の部分だけがくっきりと焼けてしまい、上半身裸になると胴の白さとあいまってめっちゃかっこ悪い。
俺は、確かに質量を感じさせるまでに激しい太陽光線を浴びながら、しばらく甲羅干しをすることにした。
熱線をもろに浴びて熱くなった砂浜に思い切ってうつ伏せに寝そべると、まじで体の前半分が全部火傷するかと思う程熱かったが、それでも我慢していると、次第にその熱さにも慣れてくる。
「うぉ~~~……あっっっちぃ~~~……」
などと呟きながら、しばらく灼熱の太陽と灼熱の砂浜に両面焼きされていると、だんだんと「熱さ」とか「暑さ」とかそういった感覚が壊れて麻痺し、気持ちよくなってくる。
ランナーズ・ハイならぬ、ハンバーグ・ハイ状態だ。
……
……もはや自分でも何を言ってるかわからないのだが、とにかく色んな感覚が壊れて、とても心地良い状態になるのだ。
……
……
……気づけば寝入ってしまっていたようだ。俺はどのくらい寝ていたのだろうっていうか暑っっっちぃ!!!!。暑い!体中が熱い!チンしたグラタンくらい熱い!!
ダッシュで海に入ると、さっきまでぬるかったはずの海水がとても冷たく感じられ、サウナの後の水風呂のように爽快であった。
そんなこんなでビーチを存分に堪能すると、宿に戻りシャワーを浴びることにした。
砂まみれのサンダルを外の水道で洗い流してから、サンダル履きのまま民宿に入ると、民宿のおばさんに
「欧米かっ!!」
と言われてしまった。マレー語で叫ばれたのでよくわからないが、たぶんそんな感じだ。
「靴は外。ここはマレーシアの家だよ。」
「そうだったね。ごめんよ。」
シャワーを浴び部屋に戻ると、思い出したかのように急激に眠くなり、そのまま寝てしまった。
起きると、もう外は真っ暗だった。そして、えぐりこむように腹が減っていたので、食事をしに外に出ることにしたのだが、なんと外はどしゃ降りだった。
こんなときは、とりあえず一服だ。
10分もすると小雨になってきたので、外へ出て夕食を食べることにした。
しばらく屋台飯しか食べていないので、栄養が偏って体調を崩す前に今回はたくさん食べておこうと思い、20RM(約600円)程奮発して、レストランでインド風のセットメニューを食べた。久しぶりにサラダなんてものを食べた気がする。
一人で黙々と食べていると、2つ程離れたテーブルに日本人の団体が居て、酒を飲みながら楽しそうに喋っているのが見えた。彼らは4人組で、そのうち一人は良く見るとマレー系かインド系のよく肥えたおじさんだったが、なかなか流暢な日本語を喋っていた。
その彼と、目が合った。
彼はたぷたぷの腹と顔を震わせて、笑顔でこう言った。
「一緒に飲むかいっ!」