ダイブ トゥー ザ フューチャー


こんな何の変哲も無い、普通の日に一人で考え事してるとき限って、あいつはやってくる。
ここから俺は数時間、頭の中の深いところででそいつと格闘し続けた。
客観的になるととても恥ずかしいことなので、「旅行記で自分語りとかきめぇwww」とか思う人はスルーして欲しい。

……
あいつは気づくと俺の斜め後ろにいる。そしてちょっと浮いてる。俺を後ろから俯瞰している。
ハッとして振り返ると、あいつは既に口を開いている。
「お前は一体何をしているの?」
「なんでここにいるの?」
「なんのために旅に出たの?」
「現状に満足してる?」
「遊んでないで、今すぐ日本に帰って勉強でもすれば?」

あいつはそういったとりとめのない質問を次々と浴びせかけてくる。
俺はあいつの質問に明確な答えを打ち出すことができないまま、聞こえないフリをし続けている。

日本を離れてはるばるこんな所へ、一体何をしにきたと言われれば、もちろん「旅」をしにきた。しかしあいつの求めている答えはそんなものじゃなかった。
俺は何しにこんなとこまで来たんだ?つーかなんでそんなこともわかんないんだ?え?旅に出るときはわかってたんだっけ?あれ、全然わかんね……
……
あーそうだ、俺はあいつから逃げるためにここまで来たんだった。
大学も行かず、アルバイトばかりして遊んでばかりの俺に、あいつはいつも付きまとってきて、
「学校行かなくていいの?」とか
「なんのためにアルバイトしてるの?」とか
「そうやって遊んでいる間にもお前の親は汗水垂らして働いて、お前の大学の高額な学費を稼いでいるんだよ?」とか
「夢も目的もなく大学に入ってただ遊んでいるだけってさぞ楽しいだろうね?」とか
俺の現状に対する矛盾点を、的確に突いてくるのだ。
俺はそんなあいつの言葉と視線が嫌で嫌で仕方なくて、自分が着ていた服からほつれた糸が引っ張られて、しゅるしゅるとほどけていって、だんだん素っ裸にされていくようで、そうやって寒くて心細くなっていくのが嫌で、あいつから逃げたくて、気づけば俺は飛行機に乗って、列車に乗って、バスに乗ってこんな所まで来てしまっていた。
しかし無駄だった。どこへ逃げても、どんなスピードで逃げても、あいつは気づくと俺のすぐ後ろに立っていた。
そして語りかけてくる。
「それで?お前は一体『何』をしているの?」
逃げたって無駄なのはわかっていた。あいつは俺自身だから。しかし俺はあいつではない。
つまり、俺はあいつに適当な理由をつけて納得させることなんてできないし、かと言って逃げ切ることもできない。
俺の好きな小説の主人公は、こんなことを言っていた。
「俺は、俺が俺であることを忘れさせてくれるものを探して、どこへでも行ってやる」
俺にそんなことができるのだろうか?俺には、彼みたいに弾丸のように早く走ることなんてできないし、自分の拳で状況を打開する力もない。彼のようには、いかない。
こんなことは初めてだった。今までは、何か問題が起こったら、今までに得た知識や経験からそれに類似したものを探して、工夫したり応用したりしてなんとかしてきた。いや、それでなんとかなってきたのだ。そうやってのらりくらりと生きてきた。だが今回ばかりはそうもいかないらしい。
全くの、自分だけの、ゼロから創り上げるオリジナルな「答え」。あいつが求めているのは、それなのだ。
俺は一体、この旅の中に、果てに、その先に、どんな答えを見出そうとしているのだろう。想像もつかないが、すごく興味がある。
それならば、探しに行こう。ここに無いのなら、バスにでも列車にでも飛行機にでも乗って、「どこへでも行ってやる」。昔から、逃げるより追いかけるほうが好きだし。追いかけて、追いかけ回して、いつかきっと見つけ出して、それをあいつの鼻っ面に突きつけてやるのだ。
ふと、頭の中にこんな言葉がよぎった。
「行動なくして利無し」
俺もあいつも、こんなシンプルで力強い言葉が大好きだった。
俺は目の前の、氷が解けて薄くなったコーヒーを一気に飲み干し、きっとシンプルで力強いであろうその「答え」を見つけに、歩き出した。



歩き出した……
のがいいかな?



俺かっこよくね?まじかっこよくね?
どうやら最近は、スタバで一人でかっこつけて自己満足に浸るのが自分の中で流行っているらしい。
俺はこのかっこよさを誰かにわかってもらいたくて、携帯から日本にいる知人にメールを送った。
しかし
「接続できません」
何度やっても
「接続できません」
送信ボタンを押した瞬間に、接続しようと頑張る様子もなく
「接続できません」
おいおい……ちょっとはがんばr
「接続できません」
……ふざk
「接続できません」
……なn
「接続できません」
………………………………っ!!
「接続できm……あっ!」

やーーーーい引っかかったーーーーー!!!だっせーーーー!!!!




……ってやってる場合じゃねーーーーーーー!!!!! その知人は極度の心配性であり、
「2日間連絡なかったら捜索願出す」
と豪語していた。昨日は連絡していない。………出される……
いや既に今頃警察署とか?面倒なことになる前になんとかして連絡しなければならない。
俺はすぐさま近くのインターネットカフェに飛び込んだ。
「パソコン貸して!!」
受付の男は大きなヘッドホンでダンサブルな音楽を聴いており、音楽に合わせて体を揺らしながら受け答えをしてくれた。
「いいYO♪」
「日本語使える?」
「使えるYO♪」
マレーシアのインターネットカフェは、日本のものとは違い仕切りなどは無く、一つの部屋に机とパソコンがたくさん置いてある、いわば学校のPC教室のようなものだった。
空いているパソコンの前に座り、こちょこちょと色々いじくってみるのだが、パソコンに疎い俺は日本語モードにする方法がわからなかった。
やむを得ず先ほどの受付をしていたヘッドホン男に頼むと、快くやってくれた。
「こうだYO♪」
「ありがとう!」
日本で作ったフリーメールのページを開くと、ちゃんと日本語が表示されていた。
メール作成画面を開き、文章を打ち込んだ。
「ryo desu.」
……あれ?……こちょこちょ……
「ryo desu.」
日本語が表示はされるのだが、入力ができない。仕方なくまたあのヘッドホン男に聞いてみた。
「日本語を入力したいんだけど、やり方わかる?」
すると彼は、聞いていた音楽がちょうど盛り上がる場面に突入したのか、リズミカルに
アイッ!ドンッ!……ノゥッッ!!!!」と答えた。
仕方ない。俺は諦めて、
「RYO desu. keitai ga kowarete Mail ga dekimasen.sore igaiha nanimo mondai nainode sinpai sinaide kudasai.」
と、ローマ字でめちゃめちゃマヌケな文章を作り、知人に送りつけた。
その途端、机に置いておいた携帯が七色に光り出し、俺に向かってこう言い放った。

「接続に成功しました」

なん……だと………?このタイミングで……?初めてですよ……私をここまでコケにしたおバカさんは……

さて、開始5分で用が済んでしまったのだが、パソコンを1時間3RM(100円くらい)で借りているので、時間いっぱい使わないともったいない。俺は久しぶりにネットができるのが嬉しくて、いろいろとサイトを巡っていると、気づけば2時間が経過していた。

焦ってネットカフェを飛び出て、屋台で夕食を食べ、明日はジョージタウンを出てどこかに行ってみようかなと思いを馳せながら、ベッドにもぐった。





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