もう嫌だ!
辛くて辛くて辛くて辛くて
こんな国出るんだ!
という訳で翌朝7時のマレーシア行きの列車に乗り、バタワースというマレーシア最初の町に到着した。
列車での国境越えも初体験だったが、意外な程あっさり終わった。イミグレーションのある国境の駅に着くと、パスポートだけ持って降ろされ、列に並んで出入国のスタンプを押してもらい、また先ほどの列車に乗ってバタワースを目指した。簡単に密入国できそうななんともお手軽な国境越えだった。
バタワースには午後1時ごろ着いたが、目的地はここからフェリーで15分ほど行ったペナン島という島である。
何を言ってるかわからねーと思うが、フェリーは1リンギットだった。フェリーで食べたパンは3リンギット。
1リンギット=約30円。信じられるか?通貨単位なんだぜこれ………
マレーシアでは10リンギットを「10RM」と表記するので、こちらでもそうすることにする。勘定の度にリンギットリンギットと書いていたのでは間違いなく途中でゲシュタルト崩壊して何がリンギットなのかわからなくなるからだ。
ペナン島に上陸し、歩いて手ごろな宿を探してチェックインした。18RMで個室が貰えるというので部屋を見せてもらうと、ドアを開けてすぐベッド、終了。たぶん3畳もない。しかしまあこの安さなら文句も言うまい。逆にここに泊まってしまえばこれ以上の狭さはないと思うので後が楽になる。……あれ?……ないよね?ここが最狭だよね?いや、これより狭いとかありえないから!大丈夫!……今俺変なフラグ立てた?
部屋を見せてもらっているとき、偶然同じタイミングでバックパックを背負った日本人女性が現れ、声をかけられた。
「日本人ですか……?」
「あ……はい……」
きた……海外でばったり日本人と鉢合わせのように会ってしまった時の、あの微妙な感じがきた。最初から会うつもりでいれば大丈夫なのだが、一人旅しているときに予期せぬ日本人との鉢合わせがあると人見知りな俺はどうしても尻込みしてしまうのだ。その時もなんとなくそのままお互い言葉を交わさずに部屋に入ってしまった。
とりあえず腹が減ったので、屋台で飯を食い、それから町歩きを開始することにした。
宿周辺はチャイナタウンらしく、いたるところに漢字の看板や中華の屋台がある。
俺は「WANTANMEE」と書かれた屋台へ行き、そのまま「ワンタンミー」と言うと、やっぱりワンタン麺が出てきた。あっさり塩味でうまかったし、ボリュームも十分だった。これで3RMなのだから安いものである。
飯を食って元気が出たところで、早速ペナン探索を開始した。ここはペナン島の中のジョージタウンという町なのだが、これが意外に広く、とても一日で攻略できそうになかったので、2時間程歩いて探索を切り上げ、ショッピングモールのスタバで一休みすることにした。
スタバでアイスラテを1杯飲むと、その金で屋台飯3~4食は食える。それでもなお、俺がスタバに入ってしまうのは、やはりどの国のスタバにもあるこの見慣れた内装、飲みなれた味に浸ることで自らを一旦旅から切り離し、心を落ち着けたいとどこかで思っているからなのだろう。
「旅ってさ……『深海魚』みたいなものじゃないかな。
深海魚って、珍しくて、キレイだろ?でも深海魚を近くで見ようと思えば、海に潜って、深く深く沈んでいかなければならない。
しかしどこかで息継ぎをしなければ、やがて溺れて、暗く深い海の底へと沈んでいってしまうんだ。
深海魚に魅せられて、もっと近くで、もっと深くへと思えば思う程に、海面からは遠ざかっていくんだ。
だから……そう、スタバでの一休みは、僕にとっての『呼吸』みたいなものなんだよね。
僕はきっと、すでに深海魚に魅せられちまってる。でもまだ、そんなに長く、深くは潜れないんだ。
こうやって何日かに一度『呼吸』をしないと、このとんでもなく大きな
って俺の中の詩人が言ってたけど、どういう意味なんだろう……
物思いにふけり疲れたので、一旦部屋に戻ろうとスタバを出た。
どしゃ降りだった。
たばこはいいね。こんな時、どこかに腰を落ち着けて、一服しながらゆっくりとこれからどうするかを考えることができることによって、こういう不測の事態に陥っても、旅のリズムのようなものを失わずに済むから。
選択肢は4つだ。
1 ここで降り止むのを待つ
2 走って濡れながら帰る
3 どこかで傘を買う
4 バスに乗る
さて、どうする?
「4番だ」
答えは決まっていた。
待てないし、濡れたくないし、金使いたくない。それに、さっきチェックインした宿の近くのバス停の101番のバスが止まっているのが見えたので、そのバスを探して乗れば帰れるだろう。きっと格安で。
ショッピングモールにあるバスターミナルへ行くと、ちょうど101番のバスが来たので、乗ってみた。乗り込むとき、俺の前には6人くらいの団体がいた。先頭の人が6人分まとめて払っていたようなので、ちょっと割り込んで俺が6人目になりなんとか無賃乗車することに成功した。
バスは発車し、俺は宿周辺の景色を見逃すまいと必死こいて外を見続けたが、何分たってもそれらしい場所へ行かない。ショッピングセンターから宿までは徒歩で10分ほどの距離なのに、バスで10分たっても着かないということはないだろう。しばらく待ったが、20分たったところで俺は諦めた。通り過ぎたか、見間違いだった。
こうなったら、終点まで行って引き返してやる。そう意気込んでしばらく乗っていたが、バスは一向に終点に着かない。
……ていうかこれ町出ちゃってるよね?
大丈夫かな?
あれ?海が見えてきたぞ。
……おい!どこまでいくつもりだ!もういい降ろせ!……いや降ろすな!!ここで降ろされたら確実に迷子になる!早く終点に着いてくれ!!
……進行方向に山が見えてきた。なんか……このバス山登る感じになってるけど大丈夫?
うん、大丈夫じゃないね。完全に入ってるよこれ山に。さよなら。もうどうにでもしてください。俺は半ばヤケになり、ゆっくりと目を閉じた。この時、俺は不安を紛らわせるために、何故かiPodで中学時代よく聴いていたジャンヌダルクを聴きあの頃を思い出していたいたのをよく覚えている。
それからもバスは止まることなく走り続け……
山を二つ越えたあたりで運転手に「終点だよ」と言われた。
もう乗客は俺一人だった。運転手さん、どうかこのかあいそうな旅人を助けてください……
「どこに行きたいんだ?」
「……ジョージタウンまで……」
「……ジョージtうそぉ!!」
「わかります。たくさん突っ込みたい所があるのはわかります。しかし今回は何も言わず俺をジョージタウンに帰してください……」という目で運転手を見ると、彼はしばらく考えて、一言「座ってな」と言った。
それから、来た道をひたすらに引き返し、往復3時間以上かかってようやく宿の前のバス停で降りることができた。
俺はもう疲れてしまった。早々にシャワーを浴びて、今日はもう寝てしまおう……
シャワーを浴びていると、シャワールーム近くの洗面所から、先ほど声をかけてもらった日本人女性の声が聞こえてきた。どうやら彼女は歯を磨きにきて、たまたまそこに居合わせた男性と英語で雑談をしているようだった。聞くつもりはなくても、聞こえてしまうのだから仕方がない。
お互い自己紹介をしている。男性はドイツ人のようだ。女性は7ヶ月かけてアジアを回っているらしい。俺は「ドイツ人と雑談だなんてすごいなあ!」と子供のように感心しながらその会話を聞いていた。
部屋に戻って寝る支度をしていると、突然ドアがノックされた。
「敵襲かッッッ!!!」
ビクッとして警戒態勢に入ると、もう一度ノックされた。やはり俺の部屋だ。
恐る恐るドアを開けると、そこにはさっきの日本人女性が立っていた。彼女は俺の顔を見るなり、唐突に言った。
「こんばんわ。明日ドライブ行きませんか?」
は?