一旦ホテルへ戻り、朝食を食べると、すぐにまたアンコールワットへと出発した。
今回は3人一組のツアーで、日本人女性2人と一緒に行くことになった。
2人は、27歳でレゲエダンサー風のミホさんと、25歳のおっとりしたカナさんといった。
ミホさんはオーストラリアでワーホリをして金を貯め、日本に帰りがてらインドネシアに渡って陸路でマレー半島を上ってここまで来たらしい。それをコンビニ行きがてらハガキ出してくるみたいなノリでさらっと言うものだから、旅人ってかっけえなと思ってしまう。
カナさんはバンコクで日本人幼稚園の保母さんをやっていて、休暇で来ているらしい。バリバリの京都弁が聞いていて面白い。
それにツアーガイドを入れた4人でトゥクトゥクに乗り、アンコールワットへと向かった。
俺たちは簡単な自己紹介を終えると、すぐにさっき見た交通事故の話になった。彼女らも日の出鑑賞に行ったらしく、俺が見るより前の現場を見ていたらしい。
「あれ怖かったよね~」
「ほんまに怖かったですね~。あの私倒れた人の顔まじまじと見てしまったんですけど、なんかいっちゃってましたもん。血とかもどばあーっと出てて、あ~れは助からないですよ~~」
カナさん……頼むからそんなことおっとり言わんでください。こちとら命の危険の無い安全な国でぬくぬくとゆとりを持って育ってきたか弱い旅行者なんですからね!
俺は気づかれないように手すりを強く握りなおした。しかしカンボジアのトゥクトゥクは客が完全にむき出しになっているので、万が一不運と踊っちまって何かと衝突したら俺は確実に頭部からクランゲに似た何かをぶちまけて死ぬだろう。
そんなこんなで若干テンション下がり気味でアンコールワット遺跡に着いた。
アンコールワット遺跡郡は、あの有名なアンコ-ルワット以外にもたくさん遺跡があり、1日かけてやっと回れるほどの広さがある。
午前中は、アンコールワット以外の遺跡を回ることになった。
所々修復工事でネットがかけられて入れなかったり、中には観光客がうじゃうじゃいたり(しかも半分くらい日本人)、遺跡を少し出ると物売りが待ち構えており、しつこく、本当にしつこくクソの役にも立たないようなポストカードやアクセサリー、Tシャツなどを売りつけてきたりして、あまり想像してたような荘厳な雰囲気や趣は感じられなかった。
しかしガイドさんが話してくれる、歴史や伝説、遺跡の構造の解説などはなかなかおもしろかった。
遺跡に刻まれた壁彫刻を見ると、遺跡内部に進むにつれてストーリーになっているのだ。最初の壁はカンボジア軍が行進している絵、次は異教徒の国と戦っている絵、そして戦いに勝って宴をしている絵になる。
また、遺跡には3つの門があり、1つめは王が通る道、2つめは勝利した者が通る道、3つめは死者が通る道だ。つまり、敗者が帰ってくる門は無いのだ。旧日本軍のような発想である。
休憩時間には、ガイドさんと話した。
ガイドの仕事も色々大変らしい。様々な観光客のグループに、必ずと言っていい程ガイドがついていて、俺たちがそのグループとすれ違う度に軽口を交し合っていた。日本語がとても上手なガイドとすれ違うと、「あの人はベテランガイドです。とても日本語うまい。私もがんばります。」と尊敬していたが、すれ違うとき「あのガイドとてもうるさいです。あの人変なので近づかないでください。」と仲間ハズレにされているやつもいた。
その後ものべつ幕なしに愚痴をこぼしていて、ガイド界のゴタゴタを仕事に持ち込むなよと言いたかったが、色々大変そうなので聞いてあげた。
それから昼食をとり、午後はアンコールワットを観光した。
アンコールワットというのは、昔これを作った王が考えた世界の縮図を表しているそうだ。
←真ん中の一番高い塔はその王が住む山で、周りの塔はヒマラヤ山脈を表しているらしい。
アンコールワットは、想像していたものとはかけ離れていた。もっとキレイでツルツルした感じだと思っていたのだが、全部石造りで、所々風化したりコケが生えたり、根っこに侵食されたりして、とてもゴツゴツした感じだった。
アンコールワットの外壁に刻まれた彫刻は、昔の神話を表現しているらしく、ベンメリア遺跡でも同じ説明を聞いたのですっかり覚えてしまった。
要約すると、むかし神が不老不死の薬を得ようとして、山にヘビを巻きつけ、支えとして山の下にでかいカメを置き、阿修羅や人間たちにヘビの両側を引っ張らせると、山はぐるぐる回転し、海は煮立って乳白色になり、その泡から色んな動物が出てきて、同時に不老不死の薬も出てきた。神はそれを飲んだが、少しだけ悪魔に飲まれてしまい、神は怒って悪魔に気円斬を投げつけ、悪魔は首がとれてしまったが、不老不死の薬を少しだけ飲んでいたので首だけで生きて悪さをしたらしい。
たぶん60%くらいは合ってると思う。
遺跡を出て一度ホテルに戻り、少し休んだ後またアンコール遺跡へ行き、近くの山から見れるという夕日を見に行った。
20分程かけて小高い山を登ると、頂上には360度見渡す限りの地平線があった。っていうか360度地平線ってすごくね?地球が丸いって知らなかったら、いま山に登っている自分が世界の中心にいると思ってしまうだろう。きっと何千、何万年も前の王様は俺と同じことを思ったに違いない。
西側の空には、地平線に沈み行くオレンジ色の空と太陽。いやこれはオレンジ色というのではなく、夕日色と言ったほうが正しいかもしれない。今日の朝にアンコールワットから上ってきた朝日が、夕日になって地平線に落ちていった。ずっと忘れていた、当たり前で、神秘的なことだった。
ふと後ろを見ると、アンコールワットの真上の藍の空に、小さくて綺麗な半月がぽつんと浮かんでいた。俺はこの時初めてアンコールワット遺跡に趣というものを感じた。この遺跡には、太陽よりも月がとてもよく似合うと感じた。
周りの観光客も、熱心にシャッターを切っていた。いつもは周りがパシャパシャやっていると引いてしまい、恥ずかしさでカメラを出したくなくなるのだが、この時ばかりは撮っておこうと思った。
俺は恥を忍んでバッグの中からカメラを出しt………
カメラ忘れた………
俺はこの美しい夕焼けを、フィルムではなく目に焼き付けた。
ホテルへ戻り、今日共に観光をしたミホさんとカナさんと夕食を食べた。
二人は海外での経験や、仕事について、またここに来た経緯などを話してくれた。俺は海外生活の長い二人に対し、今の日本のことや学生たちのことを話した。これから旅するタイ南部や北部、ラオスやマレーシアの有益な情報がたくさん手に入り、とても有意義な時間となった。
翌朝、朝食を食べていると、クリスマスイブに彼女とチョメチョメするからという理由で執拗にオカモトのコンドームをせびってきたがめつい青年がいたので、話しかけてみた。
「おはよう!昨日はどうだった?チョメチョメできた?」
すると彼は急にマジ泣き寸前の顔で
「ノーチョメチョメ………」とつぶやいた。
俺は笑いをこらえながら
「そうか~残念だったね。なんでだろうね。」と励ますと、彼は
「なぜだかわからない……」と絶望した顔で言った。
がめついからだろ………
がっつきすぎたんだよお前は。
朝食を終え、今日ベンメリア遺跡へ行くというミホさんとカナさんに別れを告げ、バンコクへ向かった。
そこからは、長く苦しい旅だった。窮屈なバスに押し込められ、訳の分からない所で降ろされ、来るかもわからないバスを待ち続ける。途中、やけに日本の芸人のギャグを連発してくるカンボジア人の少女にミサンガをもらったり、ジローラモ似のフランス人と上品な会話を繰り広げたりしたが、バンコクに着く15時間のうち14時間はただ座席に座って外を眺めたりタバコを吸って待っているだけの退屈すぎる時間だった。
へとへとになってバンコクに着き、とりあえずどこでもいいので宿が欲しかった俺は、最初に泊まったあの監獄のようなホテルへ向かい、部屋をもらった。
翌朝、早起きして宿を探していると、後ろから肩を叩かれた。
何ぞと思って振り向くと、
なぜかアキがいた。